日本政府のLGBT差別に関する認識とは【差別解消法 v.s. 理解増進法!?】

ライター: JobRainbow編集部
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LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーの頭文字をとった、セクシュアルマイノリティの総称)の人権をめぐって、様々な問題が浮き彫りとなっている現在の日本。

実は、国際機関から「一刻も早く差別禁止法を整えるように」と注意勧告され続けていることを知っていますか?

性的指向や性自認による根強い差別が残る今の日本社会は、セクシュアルマイノリティの人権が無視されてしまっているという、憲法違反の状態を容認しているともいえます。

こういった現状に対して、日本政府はどのような対応が求められているのでしょうか。また実際に、どのような対策が進められているのでしょうか?

差別に対する制度の必要性や、今後わたしたちの目指すべき社会について、じっくり解説していきたいと思います。

国際機関から注意され続ける日本

プライドの行進

つい数年前までほんの一部の人しか知らなった「LGBT」という言葉は、ここ2、3年で一気に日本中に広まり、海外の動向なども汲んであらゆる支援などが進められてきました。

そんな中で、「日本は宗教による差別などがないからLGBTに寛容」「差別禁止法や過度な保護は、差別のない日本では逆に差別を助長する」といった声も多く存在します。

しかし、果たして本当にそうでしょうか。

たとえばLGBTの子どものいじめ経験率は約7割にものぼり、またトランスジェンダーの約8割以上が就職活動の際に困難を抱えているという現状があります。ハラスメント、偏見、暴力、自殺…日常のあらゆる場面に差別による問題が存在し、多くの当事者が生きづらさを抱えていますが、それに対して明確な法的処置は未だ整えられていないのが現状です。

こうした現状に対して、日本政府は国際機関から数年に渡り注意勧告を受け続けています。

国際連合では「性自認および性的指向による差別」を禁止していますが、日本では差別が解消されない一方で「何もしない」状態が続いているため、改善のための具体的な取り組みを提示するよう求められ続けているのです。

1. 国際人権機関の求める対応

国際人権機関は、日本の現状に対して「性的指向および性自認を含む、あらゆる理由に基づく差別を禁止する包括的な反差別法を採択し、差別の被害者に実効的かつ適切な救済を与えるべきである」と2008年から再三にわたり指摘しています。

さらに2017年の勧告では、具体的に

・包括的差別禁止法を制定すること

・ヘイトスピーチの規制に性的指向・性自認を含めること

・性同一性障害者特例法の改正をすること

・同性パートナーシップの法的補償を実現すること

などの対応を日本政府に求めました。

日本政府によるLGBT差別への対応

議場の写真

そうした勧告を受け、2020年に迫るオリンピックへの危機感もあり、ようやく日本政府もLGBTをはじめとするセクシュアルマイノリティの差別解消に向けてゆっくりと動き始めています。しかしその対応は、まだ不十分であることは否めません。

法整備に関しては、現在、主に野党と与党、LGBT法連合会の主に3つの団体が異なる差別禁止・理解促進制度を推奨しています。この3つ、「性的指向および性自認に基づく差別を無くす」という目的こそ同じですが、実はそれぞれの実施内容や意図は少しずつ異なっているのです。

1. LGBT差別解消法(野党)

野党5党1会派が提出した「LGBT差別解消法」は、セクシュアリティを根拠とした不当な扱いを制度で禁止するものです。具体的には勝手に他者のセクシュアリティを漏らすアウティングや、対応に関する虚偽の報告に罰則が設けられています(詳しくは提出された法案原文をご覧ください)。

これは、問題に対して制度的な改革を行うことによってスピーディな解決を試みる、リベラルな色が出ている法案とも言えるでしょう。

差別を制度的に禁止する法案は、すべてのEU加盟国をはじめ世界の先進国で既に制定されており、こうした法律を未だ持っていないことに日本は危機感を抱かねばなりません。

制度上の差別解消という目的に対して即効性はあるかもしれませんが、社会には制度による差別だけではなく、偏見や無知による日常的な差別も存在しています。人々の意識が変わらない以上、そういった見えづらい差別を解消することは難しいでしょう。

まだ法案が施行されてはいないため、原文だけを見ると何が罰則の対象で、何が罰則の対象にならないのか解釈が分かれるという側面もあります。くわえて、法案の原文を見れば個人の表現に対して罰則が設けられているというわけではないとわかるのですが、表現の自由に反しているのではないか、といった意図されていない議論も発展しています。

なにはともあれ、2018年12月に提出されたこの法案。今後も目が離せません。

2. LGBT理解増進法(与党)

野党の「差別解消法」に対し、自民党によって提案された「理解増進法」は差別解消に向けてのアプローチが根本的に異なります。これは人権教育によってセクシュアルマイノリティに対する理解を深め、「人々の感情」の部分から差別を解消しようとする政策です。大きな変革を目指す野党に対し、摩擦を極力避ける保守的な色の強い対策と言えます(「LGBTに関するわが党の政策について」)

この中では、主に次の3点が強調されています。

①カミングアウトする必要のない、互いに自然に受け入れられる社会の実現。勧告の実施や罰則を含む差別禁止の政策とは一線を画す。

②憲法24条の点から同性婚を容認しない。

③性的指向・性自認の多様性の受容は、性差そのものを否定するジェンダーフリー論とはまったく異なるものである。

この3つに関しては、差別などに対する認識に疑問が残るというのが正直なところです。

①については、「カミングアウトする必要のない社会」はたしかに最終的に目指すべきところかもしれませんが、今現在の状況では差別を楽観視しすぎていると言えます。人々の意識に根付いた偏見を拭い去ることは決して簡単ではなく、それに対する具体策も明示されていないことから、差別を解消するための実効性に欠けてしまっています。

②については、まず憲法24条は必ずしも同性婚の容認を否定しているとはいえません。そして国際人権機関から「同性パートナーシップの法的補償の実現するように」と勧告されている状況をふまえても、不十分な対策といえるでしょう。

(同性婚の必要性や憲法解釈に関しては、こちらの記事で要点をまとめています!)

③については、そもそも「ジェンダーフリー論」は性差を否定していないため、事実に反する主張となっています。ジェンダーフリーはどんな性をもつ人も「性によって差別されない社会」を推奨する考えであって、人々の性別の違い(性差)そのものを否定する考えではありません。

このように、「人々の理解を促進することからはじめる」という草の根型のアプローチ自体は非常に前向きですが、差別解消のプロセスやジェンダーに関する歴史・問題に関して少し認識が甘いのではないか、と感じてしまうのがこの与党の「差別理解増進法」です。

ジェンダーフリーの意義や歴史、反対意見まで徹底解説!【ジェンダー・バックラッシュって?】

3. LGBT差別禁止法(LGBT法連合会)

政府とは別に、民間団体のLGBT法連合会が提案した「LGBT差別禁止法」も存在しています。

LGBT法連合会とは、2015年に設立された「性的指向および性自認等により困難を抱えている当事者等に対する法整備のための全国連合会」です。

LGBT差別禁止法案は、「LGBTの抱えている困難リスト」を明確にした上で主に次のような対策を推奨しています。

①防止

全国すべての学校、職場、国、都道府県や市区町村、民間企業に性的指向や性自認に関する研修と相談窓口の設置を義務付け(当事者のカミングアウトがなくても実施)

②禁止

全国のすべての学校、職場、国、都道府県や市区町村、民間企業の性的指向や性自認に関する不利益な取扱い(差別)等を禁止

③合理的配慮

全国のすべての学校、職場、国、都道府県や市区町村、民間企業に性的指向や性自認に関する困りごとを話し合いで調整する義務付け

④支援と相談窓口

全国の都道府県や市区町村に、性的指向や性自認に関する困りごとの相談窓口や居場所を設置

こうして差別の防止・禁止と啓発活動、両方を推進してるのがLGBT差別禁止法です。

LGBT禁止差別法の必要性については、LGBT法連合会がこちらのページで実際のデータと共に丁寧に説明しています。そちらも是非ご覧ください。

このように、現在までいくつかのLGBT差別に対する対策法案が出ていますが、それから中々進展していないのが現状です。しかし、現在日本人口の7人に1人とも言われているLGBT当事者の人権を保障するためにも、迅速な対応が求められています。

差別を無くすためには、「差別を禁止する制度」と「多様性に関する人々の意識」どちらかのみを変えるのではなく、どちらも同じように再構築していく必要があります。

むしろ、「制度」の整った社会に「人々の意識」は生まれ、また「人々の意識」の変化から「整った制度」が生まれるとも言えます。両方のアプローチの相互作用により社会問題の解決に繋がっていくことでしょう。

LGBTは政治対立のための道具ではない

虹色の帽子をかぶった人

野党が差別解消法を打ち出した時、与党側から多くの批判が飛び交いました。

そして与党側が理解推進法を提案した際もまた、野党から批判が飛び交いました。

しかし「LGBT差別対策」は、政治対立のための道具ではありません。

「LGBT」という言葉の背景には、自身のアイデンティティーを理由に人権を侵害され、自死を考えるほど悩みを抱え、生きたいように生きられないたくさんの生身の人々がいます。LGBT差別対策のための法を整備することは、そういった人々を一刻も早く救うために必要な救済です。

人間は完全に中立ではいられない生き物ですし、右や左という対立は政治的な場では避けては通れないことも事実でしょう。しかしどうか互いの揚げ足取りや、国際社会に顔向けするためだけの表面的な対策ではなく、差別や偏見を解消するための本質的な議論を進めてほしいと日本政府には強く思います。

LGBTは、政治対立の道具じゃありません。社会問題なんです。【音喜多都議インタビュー】

おわりに “「LGBT支援」のいらない社会とは?”

近年学校や職場などでもLGBTのためのサポートが増えましたが、それに対し「LGBT支援はいらない」「特別扱いせず、放っておいた方がいい」といった意見も多数存在します。

その根本にある「LGBTもそうでない人も、同じように“普通”に扱うべき」という思いは、「多様性が当たり前のこととして受け入れられる社会」への理想であり、それ自体は非常に社会の目指すべき姿ともいえるでしょう。

しかし「今」、本当にLGBTの支援や差別禁止制度をなくして、LGBTが「普通」に生きられる社会は整っているのでしょうか。

LGBT当事者の中には、まだまだ自分のアイデンティティーによって生き方を制限されている人、平等な権利が与えられていない人、自分を偽りながら生きることを余儀なくされている人が大勢存在し、そのせいで自殺を考えるほど追い込まれる人も少なくありません。

いつか性的指向や性自認によってそのように行動が制限されることが「当たり前」に無くなった時、そして「LGBT」という呼称が使われずに済むようになった時、その時はじめて、LGBTの支援が必要なくなった、と言えるのではないでしょうか。

その日までわたしたちは問題をしっかりを見極め、今できることから未来を変えていきましょう。

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