~LGBT差別の加害者を簡単に作り出してしまう日本社会〜 ゲイの現役大学生と東大ロースクール卒業生が考える【一橋大学生自殺事件】(後編)

ライター: JobRainbow編集部
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一橋大学の大学院生がゲイであることを暴露されたことをきっかけに転落死した事件が明るみになり、世間に衝撃を与えた。現在法学部に通う現役ゲイ大学生のジェームズと、この春に東京大学法科大学院を卒業し、全てのLGBTが自分らしく働ける社会を作るためのソーシャルベンチャー「株式会社JobRainbow」を立ち上げCOOを務めるマリコレが、改めてこの事件について考えた。(後編)※当時の文を尊重し転落死ではなく自殺という表現を使っています。不愉快な思いをされた方は申し訳ございません。

前編はこちら「〜自殺した「A君」は僕だったかもしれない〜ゲイの現役大学生と東大ロースクール卒業生が考える【一橋大学生自殺事件】(前半)

LGBT差別の加害者を簡単に作り出してしまう日本社会

マリコレ:

今回の事件では、法科大学院生なのに、という声も見られたけれど、権利意識が高いはずの法科大学院生でも差別的言動に思い至らない現状がわかったということだと思う。意識が高ければ気づけるというような問題ではないということ。それだけの社会構造があるということ。ジェームズがA君であったかもしれないのと同様に、「多くの異性愛を当然だと思う人たちが、この事件の加害者たりえたかもしれない」ということを感じている。

ジェームズ:

この事件の一番の被害者はA君だけど、同時に被告学生も自分と関わった人が亡くなるという事態を経験し、訴訟にまで発展、こうしたニュースが取り沙汰されたことによって、不幸になってしまったことは間違いない。それが、受けるべき当然の報いなのかは置いておくにしても、いまの日本社会では誰しもが、意図せずにLGBT差別の加害者に回ってしまう状態であることは大きな問題なのではないかな

マリコレ:

たしかに、ネット上では、「ストレートの友人にカミングアウトしたA君の自己責任」「こんなことで訴えられる方が可哀想」という声も見られたけれど、この発言者たちは加害者予備軍だよね。きっと身近にいるはずがないと思っているから、自分が加害者になることなんてないと疑わないし、「たまたま」こんな目にあってしまった被告学生が「かわいそう」なのだろう。

ジェームズ:

もしかしたら、被告学生はA君が同性愛者であることなんて、取るに足らないことだと思って言ってしまったのかもしれない、はたまた、友人であったA君の秘密を重圧に感じ一人で抱えることができなかったのかもしれない。

ただそのどちらにしても、もし少しでも、彼が同性愛者や性的マイノリティに対して正しい知識をもっていたら、または教育を受けていたらこんな悲劇は起こらずに済んだのかもしれないと思わずにはいられない。

マリコレ:

私は、ジェームズにカミングアウトを受けてから、きちんとLGBTのことを知るようになった。元々ゲイに対する差別意識はない方だと思っていたけど、きちんと学ぶほど、全然気づいていないことばかりだった。LGBTの人が日々息苦しい思いをしていることなんて想像したことはなかった。それに中高生のときは女子校だったけれど、仲が良くて距離が近い2人についての噂話に加わったこともあったように思って、反省するところもたくさんある。たまたま加害者にならなかっただけだとすごく感じているし、もし傷つけていることがあったならば謝りたいと今だから思える

ジェームズ:

今の日本では、僕が中学高校時代にうけたようなLGBTに対するいじめは日常的に存在しているし、教育者である教師であっても、この問題に関しては意図せず差別的発言をしていて、加害者側になってしまっていることが多い。IRHRKの調査では教師からいじめをうけたことがあるLGBTの子供は12%という結果がでていて、それは異様な数字だと誰もが思うはずだよ。

でも、そんな本人達は本気で誰かを傷つけたくてそうした発言を繰り返しているわけではないことも、よくわかる。

例えば、仲の良い同性の友人二人がいるとして、それに対して「お前ら本当に仲良いな、ホモカップルだな」なんてからかうつもりで言ったところ、その二人が「ホモじゃねーよ、気持ち悪い」という返答を笑いながらしたとする。ここに登場する人物全員が異性愛者であったとしても、例えば職場またはクラス内でそれを第三者として聞いてしまったLGBT当事者からすると、否定されたような気持ちになるし、「この職場(クラス)ではカミングアウトできないな」となってしまう。

マリコレ:

A君の周りでは、同性愛者が気持ち悪いと友人達が日常的に語っていたというけれど、彼らが特定の誰かを追い詰めようと思ってこんなことを言っていたのではないだろうね。決してそれは「想像力の欠如」といった一言では片付けられるものではなく、そもそも「いない存在を気にかける必要はない」という社会の無意識が産み出した悲劇なんじゃないだろうか。

ジェームズ:

社会の7.6%を構成するLGBTが、義務教育の中でいない存在として扱われてしまっている今の日本。そしてそれは当事者だけの不幸だけでなく、意図しない加害者を生み出し続けていると感じる。マイノリティのことをわざわざ気にかける必要はないと、ただ切り捨てるのではなく、社会全体で今一度考え直すべき時期にさしかかっているのではないか、そしてそれがひいては、社会全体の幸せにつながると僕は信じているよ。

JobRainbow編集部
ジェームズ&マリコレ

前編はこちら「〜自殺した「A君」は僕だったかもしれない〜ゲイの現役大学生と東大ロースクール卒業生が考える【一橋大学生自殺事件】(前半)

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