法律家たちは日本のLGBTムーブメントにおいて何ができるのか?それぞれの真摯な思いと地道な取り組みが希望の光となる(LLAN Equality Galaレポート後編)

ライター: JobRainbow編集部
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LLAN Equality Galaレポート前編はこちらから

世界各国からの応援団

LGBT弁護士・支援者ネットワーク「LLAN」(LGBT Lawyers & Allies Network)に期待できる理由の一つは、その人脈の強さと広がりだ。

今回のGalaには、海外からのゲストとして、前オーストラリア高等裁判所判事マイケル・カービー氏を初めとして、アメリカやカナダ、イギリスからも法律の専門家が多数参加し、各国での経験やこれからのLGBTを取り巻く状況、課題解決に向けて進むべき道について、素晴らしいスピーチで会場の士気を高めた(※マイケル・カービー氏のスピーチを近日公開予定)。

アメリカ法曹協会会長リンダ・クレイン氏は、LLANのお手本にもなるであろう、同協会での40年にも渡る取り組みについて言及した。

「今夜は『平等』を祝いましょう!これまで世界中の法律家たちが、職務上でまたは無償で、LGBTの地位向上のために奮闘してきました。アメリカ法曹協会も40年に渡り、そのような活動に貢献し続けてきました。」

「1973年に、性的指向やジェンダーアイデンティティーに関する最初のポリシーをサポートしてから、2014年決議を含め、実に30以上の同様のポリシーを扱ってきました。2014年の決議は、LGBTの人権を認め、LGBTであるということで差別を受けず、恐怖や暴力から解放されるということを述べています。」

「私たちの協会は、協会内にとどまらず、アメリカ社会、そして、近年では世界においても、LGBTをサポートする取り組みを行っています。2010年、米国内での議論の中で、協会は砦となってこのスタンスを維持し、同性婚を認めるよう訴えました。5年後、連邦裁判所によって同性婚は認められるに至りました。」

アメリカでの近年のLGBTムーブメントの背景に、アメリカ法曹協会の活躍も欠かせないものだったであろう。LLANにも日本での同様の働きが期待されるところである。

クレイン氏は、「協会はこれからも日本でのLGBTムーブメントを支援していきます」と心強い言葉も残した。

アメリカ法曹協会会長リンダ・クレイン氏が演説する様子
アメリカ法曹協会会長リンダ・クレイン氏

保守的な自民党での当事者の寄り添う取り組み

また、国内からは、自民党衆議院議員の牧島かれん氏、同じく宮川典子氏が登壇した。

牧島議員は、「性的マイノリティの課題を考える会」の事務局長を務めており、LGBTコミュニティへ継続的コミットを続けている。LGBTの課題に関心を持ったきっかけは、同時多発テロで引き裂かれた同性カップルたちを目の当たりにしたことだった。

「同性カップルの人々が悲しんでいる、苦しんでいる状況を見ながら、何をしなければいけなかったのだろうかと考えながら、日本に帰ってきて、政治の現場に入りました。でも、仲間を見つけるのはそんなに簡単なことではありませんでした。自民党という保守的な党の議員たちからは、『自分の選挙区には住んでいない』『私はLGBTの人たちに会ったことがない』というコメントをたくさん受けたのも事実です。」

そんな中でも地道にLGBTの存在に気づいてもらう努力を重ね、ようやく党内にも特命委員会が立ち上がった。

「特に、LGBTの子供たちの問題は、とても重要です。教師たちも理解が足りず、LGBTの子供達に対して『あなたはトランスジェンダーなの?病院に行かなければいけないね』ということがあります。これは間違っています。まずは性の多様性の理解を深めなければならないというところに私たちは立っています。」

まずは性の多様性の理解を深めることが最初の一歩だ。

牧島かれん衆議院議員
牧島かれん衆議院議員

牧島議員は、JobRainbowの取材に対し、「『一億総活躍社会』という言葉は、LGBTの当事者に対するメッセージでもあります。誰もが持っているその人らしさで、社会を元気にしようということ。これからは新しい時代で、今までとは違う価値観が求められます。当事者の視点や気づいたこと、アイディアをぜひ声に出してほしい。そのことが社会・企業にプラスになると考えています。」と、語った。

続いてスピーチを行った宮川議員は、2016年2月に発足した、自民党の「性的指向・性自認に関する特命委員会」の事務局長を務めている。教師時代に、トランスジェンダーのきょうだいに出会い、愛の告白を受けるなど、深く寄り添った経験がある。「政治課題としてLGBTが挙がったときに、何かやる運命にある」と思った。

宮川典子衆議院議員
宮川典子衆議院議員

「今自民党でやらなければならないのは、理解増進法だと思っています。まずは、自分たちと同じ性的指向を持っている人だけではない、いろんな性的指向があり性自認があるんだということ、病気でもなく障害でもないということ。その知識を作っていくことがとても重要だと思っています。」

「もう1つは、当事者のみなさんが抱えている生きづらさをしっかり解消していくことが重要だと思っています。法律を改正していくこともあるかもしれませんが、今の法律のなかで運用を変えて、そして運用する側が理解をすれば、おそらくみなさんが抱えている生きづらさは、かなりの部分が解決されると思っています。」

LLANの法律家集団としてのアプローチ

LLANはまだ立ち上がったばかりの団体だが、すでに一つの成果物を作った。それが「婚姻に関する外国法調査報告書」だ。編者の中井綾弁護士(ゴールドマンサックス証券)と大谷悠紀子弁護士(森・濱田松本法律事務所)が発表した。

左から大谷氏(森・濱田松本法律事務所)、ドミトレンコ氏(フレッシュフィールズ)、中井氏(GS法務部)
左から大谷氏(森・濱田松本法律事務所)、ドミトレンコ氏(フレッシュフィールズ)、中井氏(GS法務部)

 中井氏が代表して日本語と英語でスピーチを行った。

「現在、世界で22か国において同性婚は認められています。このレポートはそのうち9か国を取り上げ、同性婚が認められるようになった経緯、反対派の主張、それがどのように乗り越えられたかといったことを報告しています。このレポートは、日弁連のLGBT支援法律家ネットワークが行っております、人権救済申立の参考資料として、提出させていただく予定です。」

「現在世の中にはたくさんのLGBTを支援するネットワーク、組織がありますが、我々のようなグローバルな法律家のネットワークとしてLGBTをサポートしている団体は他に類を見ないのではないかと思っています。LGBTの人々が現在直面している様々な差別・困難があると思いますが、婚姻という法制度における差別に関しては、法律家が解決していく、その関与が不可欠になっていると思います。多くの国で同性婚は裁判所の判決、または憲法解釈、それから立法の議論の過程で実現されてきました。」

「LLANはユニークな団体だと思いますが、私はユニークな団体というのはユニークな義務を負っていると思っています。このようなミッションをシェアする弁護士の団体として集まり、この人権救済申立についていったい何ができるかと考えた時に、私たちとしてはこのようなレポートを作成するという考えに至りました。このレポートを日弁連の皆様に提出し、それによって人権救済申立を日弁連の方がレビューして審査する一助になればと思っております。」

このレポートの作成にあたっては多くの法律事務所の各国の弁護士のプロボノ活動が不可欠だった。台湾の章の翻訳に携わった入所1年目の大下真弁護士(森・濱田松本法律事務所)は、「所内でこの活動の話が回ってきて、『自分だったら』と考えた時のシンプルな気持ちから、サポートしたいと思った。まずは少しでも活動することで何か影響を与えられれば」と語る。

LLANの大部分を構成するのはこういったアライの弁護士たちだ。普段の業務をこなしながら、忙しい合間を縫ってLLANとしての活動に無償で貢献している。今後は、法律面での継続的なプロボノ活動に加え、アメリカ法曹協会が開発したアライを増やすためのツールキットの日本語版の作成や、啓発活動等を行っていく予定だ。また、何よりも人脈の広さを活かし、それぞれの抱えるクライアントを巻き込んで、日本独自のより大きな流れを作っていくことにも期待できるだろう。

同性婚人権救済弁護団との協力

最後にもう一つ、日本のLGBT課題と法律家との関わりを語る上で欠かすことができないのが、同性婚人権救済弁護団の存在だ。パーティの終盤で、同団体がまとめた「同性婚 だれもが自由に結婚する権利」(明石書店)が紹介された。

昨年7月の当事者455名による同性婚人権救済申立のエッセンスを詰め込んだ本だ。およそ360名の方が、成長過程での悩みや孤立、現在の暮らしの中での様々な苦しさ、辛さについて、自分の言葉で書いている。

同性婚人権救済弁護団編の書籍と、Galaにて発表されたレポート
左が同性婚人権救済弁護団編の書籍、右が本Galaにて発表されたレポート

同団体の代表としてスピーチを行った中川重徳弁護士は、「これを読んで、どうしてこんなことが今でも解決されないのだろうということを、私は本当に法律家として思います。」と語気を強める。
職場でのLGBT差別はいけないのだという前向きなメッセージが書かれた法律がないことが問題だと指摘する。

同性婚人権救済弁護団の中川重徳氏が演説する様子
中川重徳氏(同性婚人権救済弁護団)

 また、中川氏は長年にわたる活動を振り返って、法律家としての印象的なエピソードを語った。

「1990年代くらいから細々とこの問題に関わってきました。91年にある裁判をやって、サンフランシスコに行った時のことを思い出しました。一つの小さい裁判だったのですが、アメリカのロイヤーに言われたんです。『お前がやっているケースは、俺たちが20年前にやったケースそのものだ。これは勝つか負けるかは言えないけれども、絶対に大きな流れになる。自分たちがそうだったから言えるんだ』と。私はこの言葉が忘れられません。」

中川氏は、日本での20年後の大きなうねりを信じて、一つ一つの事件を戦ってきたのだ。

LGBTの明るい未来へ、日本でも一歩ずつ

前述の通り、アメリカでは40年以上も法律家たちがLGBTの課題に取り組み続けている。日本でも婚姻の平等が実現されるためには、まだまだ短くない道のりがあるかもしれない。しかし、この日この場に集まった人々は、希望があることを知っている。そして、希望の実現のためにはたくさんのアライの存在が不可欠であることを。

本Galaでは、日本におけるLGBT課題解決のため、国内外の多くの法律家たちが力になりたいという思いを持っていることが改めて確かめられた。組織横断的な団体、LLANができたことによって、法律面からのアプローチはより強力なものになるだろう。

他国で実現されつつある婚姻の平等、差別の解消。日本でもそこに向かうステップは、一歩ずつ着実に、踏み出されている。

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