アウティングとは?【事件・事例を交えて意味を解説】

ライター: Rickey
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アウティングとは、「あの人って同性パートナーいるらしいよ」など、ある人のセクシュアリティを許可なく第三者に言いふらしたり、SNSに書き込むことです。カミングアウトは当事者が自分で相手にセクシュアリティを打ち明けるものであることに対し、アウティングは自分でなく他の人が勝手に行うという点が異なります。

LGBTについての情報を得るときに、必ずと言っていいほど出てくる「カミングアウト」。そんなカミングアウトと似ているようで全く異なるのが「アウティング」です。

アウティングは、ときに人の命を奪います。
大切な人の命を、心を守るために。自分がセクシュアルマイノリティである・ないにかかわらず知っておくべき「アウティング」について説明していきます。

アウティングとは

相手の顔の前に手のひらを突き出して相手を止めている人

本来、アウティングとは他人の秘密を許可なく別の人に言うこと全般を指すのですが、日本においては人のセクシュアリティを勝手に第三者に言いふらすという意味で使われる場面が多いです。

それに対しカミングアウトとは、これまで誰にも言ってこなかった自分の秘密を話すことです。「秘密」といっても様々なものがありますが、LGBTに関する話題では、自分のセクシュアリティを打ち明けること、という意味になります。

例えば、Aさん・Bさん・Cさんがいるとして、

  • AさんがBさんに自分から「自分はゲイである」と言うことはカミングアウト
  • BさんがAさんの許可なく「Aさんってゲイなんだって」とCさんに言うことはアウティング

だといえます。

そもそもLGBTに関係なく、自分の秘密を勝手に誰かが言いふらしていたら、いい気分ではありません。信頼していた人にそんなことをされれば、裏切られた気分になり傷つくことは容易に想像できます。

私自身、信頼している人にのみセクシュアリティをカミングアウトしていたのに、教えていないはずの知人から「大変そうだな、頑張れよ」と言われた時には驚きました。

言いふらした本人は、私にとって過ごしやすい環境にしてあげよう、と「よかれと思って」した行動だったのかもしれません。でも、自分にまつわることを多くの人に話したい人も、ごく少数の人にしか話したくない人もいます。少なくとも私は、信頼している人にしか伝えたくありませんでした。

秘密を守らないことは、信頼関係すらもゆるがせる。これもまた「LGBTだから」というわけではありません。

なんでアウティングしちゃいけないの?

マスクをして腕を組む子供

「カミングアウトには勇気が必要だろうから代わりに広めてあげただけなのに、なんでアウティングしちゃだめなの?」

こう思われた方もいるかもしれません。

しかし、先ほどの章でも触れたように、自分の秘密を他人にペラペラ広められるのは、セクシュアリティの話である/ないに関わらずいい気がしないでしょう。

また、LGBTに対する差別や偏見が根強く残るコミュニティや組織もあります。そこで隠そうとしていたセクシュアリティが意図せず広まることで、周囲から誤ったイメージを抱かれ、ときにはいじめなどにも発展してしまいます。

もしカミングアウトされたら、「打ち明けてくれてありがとう」と感謝を伝えた上で、

「自分以外誰にカミングアウトしているの?」

「誰になら共通の話題として出しても平気?」

など、当事者が伝えている/伝えていい範囲を確認しましょう。

アウティングに関わる事件・事例

一橋アウティング事件

「アウティング」という言葉が広まるきっかけとなったのが、一橋アウティング事件です。

2015年、一橋大学の法科大学院で起きたこの事件。ゲイの学生Aさんが同級生のBさんに告白したところ、告白されたBさんが「Aさんはゲイである」とLINEグループで発言し、アウティングされたAさんが精神的にショックを受け投身自殺してしまったのです。

秘密を暴露された当事者にとって、アウティングがどれほど辛いものか。感じ方は当然人によって異なりますし、言い方を変えれば「計り知れない」とも言えます。

この事件では尊い命が失われたと同時に、「アウティング」が広く世に知られるきっかけともなりました。

また、この事件においては「大学サイドの対応が適切であったのか」が争点となっています。アウティングされたのち、Aさんはアウティングをハラスメントだと考え、大学のにあるハラスメント相談室に相談しました。ところが、相談員は学生委員会での対応を検討しており、相談員がもとより「アウティングがハラスメントである」という認識を持っていなかったことがわかります。

またそれだけでなく、相談員がAさんに対して「自身が同性愛であることを受け止めきれていないからアウティングで傷つくのではないか」といった趣旨の発言をしたことが判明しています。Aさんのせいだ、と言いたいように聞こえてしまいます。

相談員は、ゲイのAさんに対し、性同一性障害の医療支援をしているクリニックを受診するよう勧めていたそうです。性的指向(好きになる性)性自認(こころの性)を混同した対応であり、こういった性に関する誤解の数々も、Aさんが命を絶った要因の一つだと考えられています。

性に関する正しい知識を持つことは、誰かを守ることにつながるのです。

株式会社イデアルパートナーの事例

こちらは、アウティングとパワハラが合わさった事例です。

豊島区の同性パートナーシップ制度を利用していたAさんは、入社時に緊急連絡先を記入する必要があり、同性のパートナーがいることを社長と上司にカミングアウトしていました。その際、業務上知る可能性の高い正社員にのみ、Aさんが「自分で」伝えることを上司たちと確認していました。

しかし、上司の1人が、あるパート労働者にAさんが同性愛者であることを許可なく伝えていたことが発覚。上司を信頼できなくなったAさんは、業務上のやりとり以外をできなくなってしまいました。

すると、そこから上司との関係性が悪化。電話での暴言や、営業会議では暴力も受けるようになりました。アウティングから発展したこの一連の出来事により、Aさんは精神疾患を患い、休職することとなってしまいました。

この事例のポイントは、アウティングについては会社が「本人がオープンにしていきたいという意向があったので、よかれと思ってやった」と主張している点です。まさに、先ほどの章で触れた内容そのままです。

なお、会社の所在地である豊島区の男女共同参画推進条例には「本人の同意なくして性自認や性的指向を公表してはならない」と記載されており、それに基づきAさんは区に対して事業者への指導などを申し立てました。その結果、会社側が謝罪し解決金を支払ったことで和解が成立しました。

アウティングを条例などで禁止することの重要性が、改めて認識されたケースだったといえます。

ハルデン・オイレンブルク事件

アウティングに関わる事件は、なんと100年以上前から存在していました。その代表的なものが、ドイツ帝国でおきたハルデン・オイレンブルク事件です。

ドイツ帝国の首相だったビスマルクは引退後、皇帝側近たちが同性愛者らしい、と政治雑誌の主幹マクシミリアン・ハルデンにほのめかしました。するとハルデンは、皇帝ヴィルヘルム2世の政策に攻撃するために、オイレンブルクをはじめとする将軍ら3人が同性愛者ではないか、という内容を雑誌に掲載。これを受けてヴィルヘルム2世は、3人を解任しました。

そのうちの1人から名誉毀損で訴えられたハルデンは、一度無罪となったものの、再審で有罪を宣告。この判決に対して、「実はオイレンブルクと裏取引をしていた」という自作自演の事件を仕組み、その裁判が続いている間にオイレンブルクと関係を結んだ男性たちを見つけ出し、証人として呼んだのです。オイレンブルクは別の裁判で「自分自身は同性愛行為に及んでいない」と断言していたため、男性たちの証言により偽証罪に問われ、政治の世界から姿を消してしまった……という事件です。

もちろん、一橋アウティング事件やイデアルパートナーの事例とは性質が大きく異なりますが、(LGBTにまつわる)アウティングは時代・場所に関係なく見られてしまうことがわかります。

【知っておくべき歴史的事件】LGBTの歴史を変えた事件 まとめ6選【日本・アメリカ】

アウティングを防ぐために

夕日を眺めながら木の横に並んで座る人の後ろ姿

「なるほど、カミングアウトだったら別に問題ないんだな」と思った方も多いでしょう。

しかし、世の中には形としては一応カミングアウトではあるものの、ほぼアウティングのようなものといったケースもあります。

例えば、ゲイだと言われている人を『そろそろカミングアウトしちゃえよ』とからかう場面は、今もテレビ番組で見られることがあります。なかには、「○○氏がゲイだという証拠も!」といった煽り文句がつくケースもあります。

しかし、周りの人がカミングアウトするようにはやしたてるのは、カミングアウトを強制するようなものです。あくまで本人がカミングアウトしたいと思った場合でなければ、本人の意思が尊重されているとは言えません。

カミングアウトとは本人のこれからの生活にかかわってくることでもあります。「その場のノリ」のようなもので無理やりカミングアウト「させる」ことは決してあってはいけません。

また、アウティングによって傷つく人が増えないよう、一橋大学の所在地でもある東京都国立市では「国立市女性と男性及び多様な性の平等参画を推進する条例」によってアウティングが禁止されました。

第 8 条

1何人も、ドメスティック・バイオレンス等、セクシュアル・ハラスメント、性的指向、性自認等を含む性別を起因とする差別その他性別に起因するいかなる人権侵害も行ってはならない。

2 何人も、性的指向、性自認等の公表に関して、いかなる場合も、強制し、若しくは禁止し、又は本人の意に反して公にしてはならない。

3 何人も、情報の発信及び流通に当たっては、性別に起因する人権侵害に当たる表現又は固定的な役割分担の意識を助長し、是認させる表現を用いないよう充分に配慮しなければならない。

国立市女性と男性及び多様な性の平等参画を推進する条例

おわりに

スマートフォンで話す人

では私たちが身近にいる人にカミングアウトされたら、どうすればよいのでしょうか。

「カミングアウトされたら何か助言をしなくてはいけない」なんてことはありません。ただ、「そうなんだ、教えてくれてありがとう」とまずは受け止めましょう。いち個人として、憶測や固定観念を持たずにその人の話を聞くことが大事です。

アウティングを防ぐには、自分を信頼して秘密を打ち明けてくれた人の意思を、何よりも尊重する必要があります。

本人が考えに考え抜いて打ち明けてくれた秘密を守ることは、人間関係を構築していくうえで必要不可欠でしょう。

参考文献

石田仁『はじめて学ぶLGBT』(2019)ナツメ社

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