スターバックスジャパンの考える「ダイバーシティ」とは【LGBTフレンドリー企業インタビュー】

ライター: JobRainbow編集部
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ダイバーシティ先進企業にJobRainbowライターが突撃インタビュー!

記念すべき第1回となる今回は、みんな知っているあの企業、「スターバックスジャパン」に伺いました。

スターバックスジャパンといえば、2017年1月に社内で同性パートナー登録が認められたばかり。また米・シアトル本社にはレインボーフラッグが掲げられ、LGBTに対するヘイトクライムからの避難所を設けるプロジェクトを行うなど、ニュースが絶えないイメージがあります。

実際のところ、日本の社内ではどのような考えのもと、ダイバーシティへの取り組みが進んでいるのでしょうか?JobRainbowライターのアンディが聞いてきましたよ。

スターバックスの信じるダイバーシティ「多様な人の居場所作り」

目黒にある本社はブラウンを基調とした落ち着きのある雰囲気。エントランスには大きなスターバックスのロゴが飾られています。

今回お話を伺うのは人事部ダイバーシティ&インクルージョンチームの高坂さんと前田さんのお二方です。

1. スターバックスジャパンがダイバーシティに取り組む理由

−早速ですが、どのようにして今回の同性パートナーシップ制度や性別適合手術のための有給制度といった、ダイバーシティの取り組みがはじめられたのでしょうか、きっかけを教えてください

高坂さん:私たちは元となる考え方として「Our Mission and Values」を大切にしており、常にパートナー(※スタッフの呼称)にも共有しています。
そこにある「誰もが自分の居場所と感じられる文化をつくります」という一節について、自分たちの居場所というだけではなく、働くパートナー、お客様、社会に対して、居場所を作りたいと考えています。

高坂さん:多様な人々の「居場所」づくりという観点では、まだまだ社会は追いついていないところがあります。そこで「スターバックスとして何ができるだろう?」と考えたのが取り組みのきっかけになっています。何か必要に迫られてというより、ごく自然な流れとしてはじまっているんですね。

スターバックスジャパンの方針

LGBTが働きやすい職場を作るために

1. 社内で作られたオリジナルのLGBT研修を導入

−経営陣、マネジメント層に対してのダイバーシティ・トレーニングを導入しているというスターバックス、どういった社内啓発活動が社内でなされているのでしょうか

前田さん:実は、同性パートナーシップ登録制度などの社内制度も導入したばかりで、それをきっかけに社内理解を深める研修をしようという流れになりました。
私たちは「Our Mission and Values」という企業理念と行動指針のもと様々な判断を行うのですが、外部の講師を呼ぶよりも、その文化を理解している私たち自身で作り伝えていくほうが私たちらしいと考えました。

高坂さん:社内制度のきっかけも一人のパートナーの声から始まったものでしたし、トレーニングにおいても、従業員の意見を導入しながらオリジナルのコンテンツを作りました。時間がかかってしまったけれども、意義や理解が深まり、リアルな声が経営層にも響いたという手ごたえがあります。
実際にやってみると、達成感もありましたけれど、まだまだ先はあるのだな、と。一連の社内環境の整備はスタートラインに過ぎないことを実感しました。

2. 店舗レベルでの取り組みも

−社員の声を反映したオリジナリティのある研修をするスターバックス。日本の各店舗におけるトレーニングの必要性やビジョンについてはどう考えているのでしょうか

高坂さん:先ほどのマネジメント層向けのトレーニングに続き、シニア・マネージャー層へのトレーニングを今後行います。管理職の方々にはeラーニングを必須とし、2017年をめどに基礎的な理解は浸透させていきたいと考えています。

高坂さん:その後は、店長クラスからお店ごとに落とし込んでいくことになります。ただ、スターバックスのパートナーへの教育として、店舗単位、また個人単位での自主性を尊重している部分があります。ダイバーシティにかかわらず、サービスの考え方・やり方はパートナー自身に考えてもらう。教えるほうも頭ごなしにNGを出すのではなく、対話しながら、行動の根拠を考えてもらうようにしています。
ハラスメント、同性パートナー制度等があるスターバックスの一人のパートナーとしてどう行動していくかを自分で考えてもらい、そこに責任を持つからこそ成長もできると思っています。これはアルバイトさんに対しても同じです。

3. 服装や髪型等、男女で分けるといった規則がそもそもなかった

−今年の採用情報のページにも、「自分で考えるから面白い」という文言があり、トップダウンや規則が多いはずの飲食業なのに、自主性が重んじられていると感じられます。LGBTにとっては、制服の規定が飲食店では問題になると思われますが、服装や髪型の規定はあるのでしょうか

高坂さん:ドレスコードに男女の区別が元々ないんです。うちでは「ドレコ」と呼んでいるんですが、男だからこう、女だからこう、という方向性はないです。
シャツの種類なども決まっていません。飲食店でお客様と接する仕事ですから、清潔感を基準とした「素材や色」の規定はあるのですが・・・。あと、頭髪も性自認に基づいて表現することができます。実際にトランスジェンダーの方も自分らしい姿で働いています。

前田さん:男女で分けるとかは、考えたこともなかったですね。今、気づきました(笑)。服装については、店舗ごとの事情もあり、マネージャーとの相談で決めていくことではあります。一度人事に問い合わせがあったのは、戸籍上男性でスカートを履きたいということでした。ルール上Noと言うことはないです。あとは、店舗で合理的に判断します。

高坂さん:改めて考えるとスターバックスには男女で分ける文化がないですね。元々女性が多いというのもありますし、むしろ女性の方が強い傾向もある。基本ルールがシンプルな「Our Mission and Values」からスタートしているからこそ、それにそぐわない文化はできないのだと思います。

スターバックス 店内

4. 同性パートナーシップや性別適合手術のための有給制度、導入へのみちのり

−性別適合手術のための有給制度や同性パートナーシップ登録制度の導入に至るまでで、苦労したことや障害となったことはありますか?

高坂さん:制度導入自体に障害があったわけではないのですが……今も苦労しているのは、制度導入の背景はひとりのパートナーの声から始まったものである、という意義を浸透させること。けっして、昨今の流れに乗った、「LGBTマーケティング」や商売の一要素とは思われないようにしたいのです。
だれもが安心して安全に働きやすくなってほしくて、その働きやすさに性差を設ける必要はないと思います。ただ、働いているパートナーさんがどういう思いでこの制度を受け入れているのかは、まだ全体を把握できていないところですね。

−2017年より導入した同性パートナーシップ制度にはすでに4組の方が登録していると聞いています。その方達は元々社内でカミングアウトなさっていたのでしょうか

前田さん:4組の方々はすでにカミングアウトをしている方々でした。もともと場所にかかわらずオープンの人もいて、信頼している人だけを対象にという人もいました。楽しく働いているからこそ、相手に嘘をついている後ろめたさもあってオープンにしたという人もいます。
ですから、周りの同僚たちにこんな制度ができたらしいよ、促されて利用したり、「あの制度もう登録したの?」と自然に聞かれて、登録したことを伝えると祝福されるムードもあったようです。

高坂さん:こうあるべきという職場の理想像はなくて、自然に例えばゲイの方が「昨日彼氏と喧嘩しちゃった」などといった会話が当たり前に会話できるような環境づくりをしているという感じです。
それはLGBTだけでなく、女性・障害者・外国人であっても、違いや差別を感じることなく働いているという環境です。同じような環境や居心地をお客様にも還元できるようにしていければと考えています。

同性パートナーシップ登録申請書
実際に社内で利用されている同性パートナーシップ登録申請書
同性パートナーシップ登録受領証
実際に社内で利用されている同性パートナーシップ登録受領証

スターバックスは、一人ひとりの個性や多様性に威厳と尊敬をもって心を通わせ、パートナーを互いに心から認め合い、人間らしさを大切にしながら成長を目指しています。また、ハラスメント防止ガイドラインでは、性別や外見、性的指向、性自認、性表現などを理由に不利益な取り扱いや差別がないよう、働く全てのパートナーにとって働きやすい快適な「自分の居場所」と感じられる職場環境を常に目指しています。

スターバックス同性パートナーシップ登録受領書

働くLGBT社員にとって、非常に心強く温かい言葉が、登録受領書には書かれています。

5. アルバイトにも浸透するスターバックスの「Our Mission and Values」

−アルバイトのはたらき方として何か配慮していることはありますか。必ずしも長く職場にいるわけではないアルバイトさんが「Our Mission and Values」のようなカルチャーを体得したり、「自分らしさ」を発揮するような場面はどんなところにあるのでしょうか。

前田さん:スターバックスでは、アルバイトに対してであっても、ただドリンクを作る、レジを打つという業務だけでなく、文化を知ることをベースとした教育があります。人事考課はアルバイトの方でも大事にしていますし、その目標設定も企業理念の体現という軸で行っています。

前田さん:研修は座学の集合研修だけではなくて、店舗ごとのOJTによって、「Our Mission and Values」をいかに体現しているか、確認とすり合わせをします。店舗のある場所、コミュニティ、カスタマーによって育成計画もバリエーションがいるからです。
このように、店舗での密なコミュニケーションによって、アルバイトであってもスターバックスのカルチャーに基づいて自然と行動するようになります。

スターバックス 外装

全ての人が働きやすい職場を作るために

ここまで、スターバックスジャパンのLGBT対応について詳しくお聞きしましたが、LGBTだけでないダイバーシティ全体についてどういった取り組みや信念を持っているのか、お話をお伺いしました。

1. 女性活躍を推進するスターバックス

−女性活躍における目標として、管理職の割合を30%にするという計画を拝見しました。御社内での女性管理職はすでに26%にものぼっていますが、これだけ風通しがよく配慮のある社内において、女性が管理職になりたがらない理由はまだまだあるのですか?

高坂さん:課題はいっぱいあります。女性の管理職を増やすにあたっては、転勤ができる・できないという壁が大きいです。地位が上がっていくに伴って、そのポジションのある地域に行かなければならないこともあります。
小さいお子さんやパートナーがいると能力やポテンシャルがあっても転勤や転居が難しいこともあり、今後はより幅広いキャリアパスの準備や、多様な働き方をどう考え推進していくかが課題になっています。

−それでも女性管理職の割合としては、十分高いものだと思います。女性活躍について、課題や取り組みを外へ発信することもあるのでしょうか

前田さん:外への働きかけはまだできていないのですが、内部での面白い取り組みとして、「Green Apron Club」といって、社外に出た人たちがその後も繋がって、ワクワクすることをしよう!というコミュニティがあります。その中でライフステージの変化で一旦退職した女性が気軽に戻ってこられるようなコミュニケーションも打っています。
ちなみに、産休・育休からの復職は今までいたポジションに戻れるため、比較的戻りやすいかと思います。女性自身がキャリアと地域性、家庭との関係について、固定観念に縛られているようには感じますので、そこから解放したいです。

2. ダイバーシティ全体におけるLGBTの位置付け

−女性や障害者、外国人の活躍にくらべ、LGBTに関する課題はダイバーシティの課題として認識されていない企業がまだまだあります。御社のダイバーシティ推進におけるLGBTの位置づけ方は、どのようにして現場に息づいていったのでしょうか

高坂さん:LGBTについては、戦略的、CSR的なきっかけではなくて、本当にひとりのパートナーの声がきっかけになって始まったものなのです。もし、それが「外国人で、かつLGBTのパートナー」の声だったら、もしかしたら「外国人であること」が優先されたかもしれないです。
偶然、あの時期に一人のパートナーが貴重な声をあげてくれて、よくよく社内制度を見てみたら何も整備されていないじゃないか、と。そこから動き出しました。
アルバイトから正社員になる際の声だったのですが、元々パートナーの声を大事にするカルチャーが社内にあったことは大きな助けになったと思います。具体的にはホットラインやパートナーリクエストカードがあります。リクエストカードから新商品のアイデアが生まれたこともあるんですよ。

スターバックス 内装

3. アメリカ本社との連携

−本社シアトルではLGBTを含めた9つのコミュニティがあると聞いていますが、どういったジャンルなのでしょうか?日本でもそういった社内コミュニティや動きはありますか

高坂さん:女性、アジア人、ヒスパニック、黒人、退役兵人、障害者、インド人などの属性で、会社公認です。例えばアジアのコミュニティだと、無料で中国語講座をやっていたり、チャイニーズニューイヤーパーティなんかもやっています。女性だと、多様な働き方やウーマンズリーダーシップについてディスカッションやワークショップを実施しています。

高坂さん:私たちも、日本のスタバのコミュニティを立ち上げたいという思いはありました。しかし、人事が旗を振ってやるのはスタバらしくないと。会社としてハード面の施策を進める中で、パートナーが声を上げやすいように環境を整えることは行いますが、こちらがお膳立てをすることはないです。声が上がった時に、出来る限りサポートしていきたいですね。

−米・シアトルでは、CEOが同性婚を支持したり、ヘイトクライムに対する避難所などがありますが、本社との連携や、本社から学ぶことはありますか

高坂さん:基本は各国が独立しています。ただしLGBTについては本社のダイバーシティチームから学ぶこともありました。他社事例も参照しましたが、スターバックスは自社の他国事例を参考にすることが多く、USの事例を主に参考にしました。
もちろん社会保険関係など日本の法制度上、USと同様にできないものはありました。また、私自身も、11月にUSのインクルージョン&ダイバーシティのマネージャーさんと実際に会って意見交換をし、USから有益な情報をもらうことができました。

4. 従業員が幸せに働ける環境を作るということ

−飲食、小売業界ではどこにおいても外国人、女性、マイノリティの比率が多いと思いますが、一方でこれらの業界ではルーティンも多く、従業員の自主性が保たれなかったり、ブラック化しやすい側面もあります。他の飲食業とスターバックスの違いはどこにあるとお考えでしょうか

前田さん:そうですね、労働時間の考え方、管理の仕方は徹底しています。1分勤怠で、タイムキープも店長に一任せず、上司・人事でも管理しています。先ほども申したように、アルバイトへの投資は他に比べて高いかもしれないです。
私たちは、いい意味で「パートナーが一番大事」だと考えています。なぜなら、働いているパートナーがハッピーでなければお客様もハッピーでないからです。その結果、3年に1度の従業員満足度調査も直近で89%という高い数字が出ています。

スターバックスジャパンからのメッセージ

1. 誰もが働きやすく、自分らしく生きることのできる会社を目指す

高坂さん:「自社のLGBTスタンス」など、一言でのコメントを聞かれると答えづらいです(笑)。別個にスタンスなんてものはなくて、すべて我々の「Our Mission and Values」に集約されることだからです。私たちは高尚な目的に邁進しているというより、ただ誰もが働きやすく、自分らしく生きることが出来る会社を目指して取り組むだけです。
それから、学生として、カスタマーとしての、当事者の声を聞きたいです。何か思うことがあれば、遠慮なく我々に発信して欲しいです。
お店に行って不愉快なこと、言葉遣いがあれば教えてください。もちろん、採用選考の段階であっても、こうした声や疑問を聴きたいと思っています。

おわりに

とってつけたような「LGBT対応策」ではない、真のダイバーシティを体現するスターバックス

Our mission and valuesの考え方が深く浸透しているからこそ、取って付けたような「LGBT対応策」ではなく、ごくごく自然な形でLGBTを含めたインクルージョンが機能していることに、深く感銘を受けました。

「社員を大切にする」カルチャーが、実際の施策や福利厚生をスムーズに導入するハードルを下げることに一役買っているのですね。同性パートナー制度を利用した社員が、職場で祝福されたというエピソードが印象に残っています。

お客様に対してもOur mission and valuesの体現を通して、スターバックスの価値観や世界観を広めていくとのことでした。

みなさんも、今度スターバックスでお茶するときに、少しこのインタビューを思い出していただければ嬉しいです。

(アンディ)

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